絵本『悪い本』(文:宮部みゆき/絵:吉田尚令)は、岩崎書店の「怪談えほん」シリーズ第一作として刊行された名作。 タイトルの通り、この本の語り手は“悪い本そのもの”。 読む人の心の奥にひそむ“悪”をそっと刺激するような、 静かで美しく、そして底知れない怖さを持つ一冊です。
📖 この絵本との出会い
図書館で「こわい絵本特集」の棚に置かれていた『悪い本』。 表紙のくまのぬいぐるみがこちらをじっと見ているようで、息子が「これ、なんで“悪い”の?」と興味津々に手に取りました。
ページを開くと、そこには“悪い本”自身が語りかけてくるような不思議な感覚。 静かに囁く言葉と、淡いのに不穏な絵が重なり、 読むほどに空気が変わっていくような怖さを感じました。 息子は途中で「やっぱり今日はここまで…」と本を閉じましたが、 そのあとも「“いちばん悪いこと”って何?」と何度も考えていました。
📚 こんな場面におすすめ
- 👧 小学生高学年以上におすすめ(深いテーマ理解が必要)
- 🕯️ 夏の夜や怪談特集の季節に
- 👨👩👧 親子で“悪とは何か”を考えたい時に
- 📖 宮部みゆき作品が好きな読書好きな大人にも
📘 あらすじ・内容
物語は、自らを「悪い本」と名乗る語り手が、読者に語りかける形で進みます。 この本は「この世でいちばん悪いことを知っている」と言い、 いつかあなたが誰かを嫌いになったとき、 「この本を開けば、どんな悪いことでも上手にできる」と誘惑します。
しかし、“いちばん悪いこと”が何なのかは、最後まで明かされません。 読者自身が、自分の心の中の“悪”と向き合い、想像することで物語が完結するのです。
吉田尚令さんの絵は、一見やわらかい色彩ながら、 ぬいぐるみや部屋の陰影に潜む不気味さがじわじわと迫ってきます。 特にくまのキャラクターの目――見てはいけないのに、見てしまう目――が印象的。 ページを閉じてもその視線が頭から離れません。

この作品は、いわゆる“おばけの怖さ”ではなく、人間の心の怖さを描いています。 大人が読めば読むほど、宮部みゆきさんらしい心理の深さを感じます。 子どもの“悪い気持ち”を完全に否定せず、「悪を知ること=自分を知ること」と教えてくれる、まさに哲学的な怪談。 息子は「??」でしたが、「悪いって何?」と話すきっかけになりました。

絵は怖かったけど内容は「サッパリ」でした!!「いちばん悪いことを知ってる」って言われたらちょっとドキッとしたし、 くまの目がこわかった。 でも、“悪い”ってどんなことなのか、まだ考えてる。
⭐ 絵本レビュー評価(5段階)
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 怖さの表現 | ★★★★★ | 言葉と沈黙の怖さ。想像する恐怖が一番深い。 |
| イラスト・雰囲気 | ★★★★★ | 可愛いのに怖い、静けさの中の不気味さ。 |
| 子どもの反応 | ★★★☆☆ | 怖すぎて途中で読むのをやめる子も。高学年向き。 |
| テーマ性 | ★★★★★ | “悪”と“心”を問う深い哲学的テーマ。 |
| 親子で読める度 | ★★★★☆ | 親がフォローすれば深い対話が生まれる。 |
🔍 まとめ
『悪い本』は、「怖い」より「考えさせられる」怪談絵本です。 読者の心に直接語りかける構成と、宮部みゆきさんの言葉の美しさが融合し、 “悪とは何か”を静かに突きつける一冊。
怖さの中に、道徳や哲学がある――だからこそ、大人にも読んでほしい。 親子で“悪い心”について語り合うことで、本当の意味での「良心」を育てるきっかけにもなります。
📝 絵本データ
- 書名:悪い本
- シリーズ:怪談えほん 第1期
- 作:宮部 みゆき
- 絵:吉田 尚令
- 出版社:岩崎書店
- ページ数:約32ページ
- 対象年齢:8歳〜大人
- ジャンル:心理・ホラー・哲学



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