絵本『はこ』(文:小野 不由美/絵:nakaban)は、岩崎書店「怪談えほん」シリーズの中でも特に静かで不気味な名作です。 物語は、小さな赤い「はこ」を見つけた少女の体験を通して、“見えない恐怖”を描き出します。 はっきりした答えが語られない構成だからこそ、読者の想像が恐怖を完成させる――そんな深い余韻を残す一冊です。
📖 この絵本との出会い
図書館の「怪談えほん」コーナーで、赤い表紙に描かれた小さな箱が気になって手に取りました。 息子が「これ、なんの箱?」と興味を示したので一緒に読みましたが、ページをめくるたびに空気が変わるような感覚に。
nakabanさんの絵は、黒と群青、そして深い赤で構成され、静かなのに“音のない恐怖”を感じます。 息子は途中で「もう今日はここまでにしよう」と本を閉じましたが、 そのあとも「箱の中って、ほんとに空っぽだったのかな」とつぶやいていました。
📚 こんな場面におすすめ
- 👻 怪談えほんシリーズを集めている方に
- 🌧️ 雨の日や静かな夜にじっくり読みたい時に
- 🧠 はっきりしない怖さを楽しめる読者に
- 👨👩👧 大人も一緒に「見えないもの」を感じたい時に
📘 あらすじ・内容
ある日、少女は小さな赤い「はこ」を見つけます。 振ると「コソコソ」と音がするものの、その箱が何なのか思い出せません。 雨の日、その箱が人知れず開いていて、覗くと中は空っぽ。 それ以来、家の中の“はこ”に異変が起きはじめます。
メダカの餌の箱、引き出し、クローゼット。 次々と開かなくなり、あるいは勝手に開き、 ハムスターや犬が姿を消します。
やがて少女のまわりでは「音」や「影」が現れ、 見えない“何か”が存在を主張しはじめます。
しかし、“はこ”の正体も、 なくなったものたちの行方も、最後まで語られません。 少女が何かに囚われたような終わり方だけが残り、 読者はその余白の中で想像を続けるしかない――。
説明がないからこそ怖い。 不安が静かに広がる、心理的ホラーの傑作です。

この作品の怖さは、「何も起きていないようで、すべてが変わっている」という点にあります。 明確な怪物も幽霊も出てこないのに、ページをめくるたびに不安が積み重なっていく。 nakabanさんの絵は、筆のにじみや影の揺らぎがまるで“見えないもの”を描いているようで、 読後にもしばらく頭から離れません。 子どもには難しい部分もありますが、“想像力が怖さを生む”という点で非常に深い作品です。

さいしょは箱の中に何があるか気になったけど、 だんだんこわくなってきた。 あけちゃダメな箱があるって、わかった。 でも中に何がいたのか、まだ気になる。よくわからない本ですごく不気味な本!!
⭐ 絵本レビュー評価(5段階)
| 評価項目 | 評価 | コメント |
|---|---|---|
| 怖さの表現 | ★★★★★ | 静かに迫る不安。説明のない恐怖が一番怖い。 |
| イラスト・雰囲気 | ★★★★★ | 黒・群青・赤の構成が不安と緊張を高める。 |
| 子どもの反応 | ★★★☆☆ | 怖がりな子は途中で読むのをやめるかも。 |
| テーマ性 | ★★★★★ | 「わからないことが怖い」という本能的テーマ。 |
| 親子で読める度 | ★★★★☆ | 読み終わったあとに話し合うと深い読後感。 |
🔍 まとめ
『はこ』は、“説明のない怖さ”で読者をじわじわと包みこむ絵本です。 何が起きたのか、なぜ起きたのか――答えがないからこそ恐ろしい。
小野不由美さんらしい余白と、nakabanさんの幻想的な絵が融合し、 大人は哲学的に、子どもは本能的に怖がる構成。
“想像する力”が一番の恐怖を生むことを教えてくれる名作です。
📝 絵本データ
- 書名:はこ
- シリーズ:怪談えほん 第2期
- 作:小野 不由美
- 絵:nakaban
- 出版社:岩崎書店
- ページ数:約32ページ
- 対象年齢:8歳〜大人
- ジャンル:ホラー・心理・サスペンス


コメント