「雨の日に、女の子がパパを駅に迎えにいく」
ただそれだけの話なのに、読み終わったあと、胸がじんわりと温かくなる。それが太田大八さんの絵本『かさ』です。
この絵本には文字がひとつもありません。そしてもう一つの特徴が、赤い傘だけに色があり、あとはすべて墨で描かれた白黒の世界だということ。その鮮やかな対比が、小さな女の子の行動をより一層際立たせています。
絵本の基本情報
| タイトル | かさ |
| 作者 | 太田大八 |
| 出版社 | 福音館書店 |
| 初版 | 1975年(こどものとも年少版) |
| 対象年齢 | 2歳〜 |
| 特徴 | 文字なし絵本・赤い傘だけが色付き・ボローニャ国際絵本原画展グラフィック賞受賞 |
あらすじ
雨が降り始めた。傘を持っていないパパが駅から帰ってくる。それに気づいた小さな女の子が、赤い傘を持って駅へお迎えに出かけます。
女の子はひとりで、雨の中を歩いていく。やがてパパと出会い、ふたりで赤い傘に入りながら、並んで家へ帰る。
文章はゼロ。でも太田大八さんの繊細な墨絵と、そこに浮かぶ一本の赤い傘が、女の子の健気さと父娘の温もりをすべて語りつくしています。
ぼくおんなのこ、ひとりでいくの?こわくないの?



パパのためだから怖くないんだと思うよ。すごいよな。
パパが読んで感じたこと
最初にこの絵本を手に取ったとき、「赤い傘だけが色付き」という事実に気づいて少し驚きました。白黒の街並みの中で、女の子が持つ赤い傘だけが鮮やかに浮かび上がる。そのビジュアルのインパクトが、読む前からただ者じゃないと感じさせてくれました。
そして読み始めると、女の子がひとりで雨の中を歩いていく場面の、なんとも言えない緊張感。小さな子が大きな決意を持って行動している姿がビシビシ伝わってきます。



パパを思って、ひとりで傘を持って迎えに行く。この「子どもが誰かのために動く」という場面に、読んでいる親が一番グッとくるんですよね。
パパと出会ったとき、女の子の表情が確認できないページがあります。それでも後ろ姿だけで「ほっとした」「うれしい」という感情がじんわり伝わってくる。太田大八さんの表現力に脱帽でした。
ふたりで赤い傘に入って並んで歩くラストシーンは、親子の絵本でこれ以上のエンディングがあるだろうかと思うほどの完成度です。
『かさ』3つの魅力
① 赤い傘だけが色付きという、唯一無二のビジュアル
白黒の墨絵の世界に、鮮やかな赤い傘がひとつだけ浮かぶ。このデザインの選択が、女の子の存在と行動をページの中で主役にしています。視線が自然と赤い傘に引き寄せられ、女の子の動きをドキドキしながら追うことができます。
子どもも「あかいかさ!」と最初のページから大興奮。色が少ないからこそ、その一色が際立つという表現の妙を、子どもなりに感じ取っているようでした。
② 「子どもが誰かのために動く」頼もしさ
多くの絵本では、子どもは助けてもらう側です。でもこの絵本の主人公は違う。雨に濡れるであろうパパのために、自分から傘を持って迎えに行く。この「小さいけれど誰かの役に立てる」という描写が、子どもの自尊心をくすぐります。
読み聞かせをしていると、子どもが「ぼくも(わたしも)おむかえいけるよ!」と言い出すことも。そういう気持ちを引き出してくれる絵本です。



息子が「ぼくもパパのかさもってく!」と言ってきたときは思わず笑ってしまいました😆
③ 文字がないから、子どもが語り手になれる
文字がないということは、読んでもらうだけの絵本ではないということ。絵を見ながら「あめ!」「あかいかさ!」「パパみつけた!」と、子ども自身が声に出してストーリーを語れます。読み聞かせながら「女の子、どこ行くんだろうね?」と問いかけると、子どもが活き活きと答えてくれます。
ことばの発達を促す絵本としても優秀で、同じ本を何度も読むたびに子どもの語彙が少しずつ豊かになるのを感じました。



パパ、もういっかいよんで!



何度もリクエストしてくれるのが、親としては一番うれしい瞬間です。短いのに何度でも読みたくなる、そういう絵本ってなかなかないんですよね。
こんな場面で読みたい
- 雨の日の読み聞かせに(雰囲気がぴったり)
- 子どもが「自分でやりたい」「だれかの役に立ちたい」と感じ始めた頃に
- 文字なし絵本を初めて体験させたいとき
- 言葉をどんどん覚えている2〜3歳の時期に
- 長く手元に置きたいプレゼントとして
おすすめの読み聞かせ年齢
2歳〜が目安ですが、年齢によって楽しみ方が変わります。
2〜3歳は「赤い色」「雨」「パパ」という身近なものを楽しめます。4〜5歳になると「なぜ女の子は傘を持っていくのか」「パパは嬉しかったかな」という気持ちの理解が深まります。親が読んでも「子どものために動く」女の子の姿に胸が熱くなる、年齢上限のない絵本です。



白黒の世界に赤い傘が映える絵は、大人が見ても「すごいな」と思う美しさがあります。親子で一緒に絵の良さを味わえる一冊です。



ぼくも、かさもってパパのおむかえいく!



それ聞いたときに「この絵本買って正解だった」と心から思いました。子どもの心にちゃんと届いてるんだなって。
まとめ
『かさ』は、「文字がない」「赤い傘だけが色付き」というシンプルな表現の中に、親子の愛情と子どもの健気さが凝縮された名作です。1975年から50年近く読み継がれてきたことが、その完成度の高さを物語っています。
雨の日に、お子さんと並んで読んでみてください。「赤い傘を持って迎えに行きたい」と思ってくれたら、この絵本の力が伝わった証拠です。
